未成年者から着用済み下着を購入したらどうなるか
こういうニュースを見かけたことがあると思います。
- 女子高生から使用済み下着を買った人が逮捕された
- 女子中学生から唾液を買った人が罰金を科せられた
このような摘発は、刑法(国の法律)ではなく、地元の都道府県が定めた「条例」に違反したことが理由です。
現在、約半数の都道府県で、未成年者から使用済み下着等を買うことを禁止する条例(青少年保護育成条例など)が制定されています。

さらに、未成年者から唾液(つば)や糞尿(おしっこなど)を買うことを、わざわざ条例で禁止している都道府県もあります。
(以下、使用済み下着、つば、おしっこなどをまとめて「使用済み下着等」と書きます)
それらの都道府県では、未成年者から使用済み下着等を購入すると、刑罰(罰金)が科されます。罰金の上限額は自治体により異なりますが、10万円から30万円の間です。
条例違反も犯罪ですので、警察に逮捕される可能性がありますし、逮捕されずに任意の取り調べと罰金で終わる場合でも、罰金刑を受けたという前科がつきます。
条例で罰則のある都道府県は23
令和5年4月の時点で、47都道府県のうち約半数の23都道府県が、未成年者から使用済み下着等を購入することを条例で禁止しています。
その23都道府県のうち約半数の11(東京都および10県)では、未成年者から「唾液や糞尿」を購入することも禁止されています。
さらに、未成年者から「体毛」を購入することを禁止している県もあります(兵庫県)。
各都道府県で禁止されている行為を、日本地図上で色分けしました。

こうして図にしてみると、なんとなく地域性があるようにも見えます。
使用済み下着等の売買を禁止する条例は、1990年代以降いわゆるブルセラショップが社会問題化したことがきっかけとなり制定されています。禁止条例の有る無しは、その種の性風俗産業の多寡とも関係しているのかもしれません。
なお、白抜きになっている県では、使用済み下着等を購入すること「それ自体」を禁止する条例はありませんが、購入した経緯や方法がわいせつな行為にあたれば、それを理由に処罰される可能性はあります。さらにもっと重い刑法上の犯罪に該当する場合もありますので、条例の有無にかかわらず、疑義ある行為は慎むことが賢明です。
フリマアプリでの購入
自治体の条例はその自治体の範囲内でおこなわれた行為に適用されます(属地性)。したがって、上の日本地図で白抜きになっている県では、未成年者から使用済み下着等を購入しても処罰されない可能性があります。
ただし、メルカリやPayPayフリマなど、インターネットのアプリを介した遠隔取引の場合、販売者、購入者のどちらか一方でも上記の色付きの都道府県にいれば、購入者は処罰されます。
犯罪行為の一部がその都道府県内でおこなわれたとみなされるからです。
たとえば、長野県(禁止規定なし)にいる人が、東京都(禁止規定あり)にいる未成年者からメルカリ経由で使用済み下着を買った場合、その人は東京都の条例によって処罰されます。
住民票の住所は関係ない
条例の適用は、住民登録している住所とは関係なく、その行為をしたときにその人が実際にいた都道府県の条例が適用されます。
たとえば、長野県(禁止条例なし)に住所がある人が東京都(禁止条例あり)に行って未成年者から使用済み下着を買うと、この人は東京都の条例により処罰されます。
未成年者から何を買うと処罰されるか
未成年者から使用済み下着や唾液、糞尿などを購入すると処罰されるわけですが、この「使用済み下着、唾液、糞尿」が具体的にどういうものを指すのか、いくつかの都道府県が発行している条例の解説書を参照しながら、見ていきます。
なお、実際に事件化する場合(摘発される場合)は、都道府県庁の解釈ではなく、警察や裁判所の解釈によって取り扱われますので、これと異なる結果になる可能性も十分あります。以下は都道府県庁の説明に基づく概観です。あくまでも一つの解釈例としてご覧ください。
使用済み下着とは
東京都などいくつかの都道府県では、担当部門が、条例の解釈について一般向けの解説書を作成・発行しています。
たとえば東京都の場合は、都の担当部署である「東京都青少年・治安対策本部総合対策部青少年課」が解説書を作成しています。その解説書では「下着」の定義について以下のように説明されています。
「下着」とは、上着の下に着る衣服で、特に、直接肌に着ける衣服をいい、かつ通常公衆の場所でそれのみを見せることのないものをいう。例えば、ショーツ、ブラジャー、パンティストッキングなどであり、靴下は含まない。
(『東京都青少年の健全な育成に関する条例の解説』169頁 2016年4月)
整理すると、
- 直接肌につけるもの
- 通常公衆の場でみせないもの
が基準のようです。
したがって、未成年者が着用したものでも、ブラウスやスカート、靴、制服などは、この条例が譲受を禁止する対象ではありません。
使用済み靴下を買っても処罰されない?
靴下は直接肌につけるものですが、他の衣服に覆われて隠されるものではないので、条例が言う「下着」にはあたらないと説明されています。

先述の東京都のほかにも、いくつかの自治体が、条例の解説書の説明で、明確に靴下を「下着」から除外しています(北海道、東京都、千葉県、埼玉県、栃木県、群馬県、富山県、大分県の各自治体)。
たとえば千葉県の解説書には以下のように書いてあります。
下着とは、上着の下に着る衣服で、特に直接肌に着ける衣服をいい、且つ、通常公衆の場でそれのみを見せることのない物をいう。例えば、ショーツ、ブラジャーなどであり、靴下は含まない。
(『千葉県青少年健全育成条例の解説』104頁 令和2年7月)
フリマアプリやX(旧ツイッター)などのSNSには、現役高校生と思われる出品者がお小遣い稼ぎのためか、使用済みのスクールソックスを出品している例が散見されます。
上記の千葉県の説明によれば、靴下は「下着」にあたらないので、誰かがそれを購入しても処罰されない可能性があります。
パンティストッキング・ストッキング・水着
パンティストッキングは「下着」にあたりますが、それ以外のストッキングや水着は、直接肌に触れるものではありますが、公衆の場所で見せるものなので、「下着」にあたらない可能性があります。

北海道庁が作成した解説書では、ストッキングと水着を明確に「下着」から除外しています。
「下着」とは、上着の下に着装し直接陰部、乳房に接する衣服をいい、通常公衆の場所でそれのみを見せることのないものをいう。陰部、乳房に直接触れるショーツ、ブラジャー、パンティーストッキングなどをいい、靴下、ストッキングは含まない。また、水着はあたらない。
(『北海道青少年健全育成条例の解説』49頁 平成19年4月)
ここでも基準は、
- 直接肌につける
- 通常公衆の場で見せない
の2点です。
洗濯してあってもアウト
着用回数は関係なく、一度でも着用すれば「使用済み下着」です。また、洗濯してあっても同じです。
唾液・糞尿とは?汗も含まれる?
「唾液」や「糞尿」は読んで字のごとしです。
過去には実際に「JKのおしっこ」と称するものがブルセラショップで売られていましたし、フリマアプリに出品された例もありました(ほんとうの中味は何だかわかりませんが)。そのような実例を踏まえて、禁止規定が制定された経緯があります。
なお、唾液や糞尿以外の体液については、どの都道府県でも、購入を禁止する規定がありません。
たとえば前掲の東京都が出している解説書には、
「だ液若しくはふん尿」には、汗などの体液は含まない。
(『東京都青少年の健全な育成に関する条例の解説』169頁 2016年4月)
と明記されています。
つまり、汗などの体液が付着した使用済み靴下を未成年者から購入しても、処罰される可能性は低いということになります。
東京都以外でも、同様に「汗などの体液を含まない」旨を公式に説明している自治体があります(千葉県、埼玉県、群馬県、大分県)。その他の自治体についても、文理上、汗は唾液や糞尿とは別物ですので、ほぼ同様の考え方ができると思います。
体毛
兵庫県では未成年者から「体毛」を購入する行為が禁止されています。体毛の購入を禁止する条例があるのは兵庫県のみです。
ニセモノを購入した場合は?
女子高生の使用済み下着だと説明されて購入したが、実際はそうではなかった。こういう場合も処罰されるのでしょうか?

多くの自治体の条例では、ニセモノだった場合でも処罰されると明確に規定しています。
ニセモノの使用済み下着
たとえば埼玉県の条例は、以下のように規定しています。
青少年から着用済み下着等(着用した下着又はだ液若しくはふん尿(これらに該当すると称したものを含む。)を…買い受け…てはならない。
「埼玉県青少年健全育成条例」 第18条の2
「これらに該当すると称したもの」とは、「使用済み下着等だと言われたもの」という意味です。つまり、実際は未成年者の使用済み下着でないものでも、そうだと説明されて未成年者から購入すると処罰されるわけです。
たとえば、「絵の具で色を付けた新品の下着」や「おばさんが使用した下着」であっても、未成年の女子高生から「わたしが使った下着です」と言われて購入すれば処罰されます。
ニセモノの唾液や糞尿
ニセモノの唾液や糞尿も同様です。未成年の女子高生から「わたしのです」と説明されて購入すると、実際はそれが「お父さんのおしっこ」であっても、処罰されます。
ニセモノでも処罰される都道府県
ニセモノでも処罰する規定がある都道府県は、以下の19都道府県です。
北海道、栃木県、群馬県、埼玉県。千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、富山県、石川県、山梨県、岐阜県、静岡県、愛知県、三重県、大阪府(古物商が買い受けた場合)、兵庫県、岡山県、沖縄県
逆に、ニセモノに関する規定がない県は、4県です(茨城県、福井県、島根県、大分県の各県)。
なお、この19+4の23都道府県以外の24府県は、そもそも、未成年者から使用済み下着等を購入することを禁止する規定がありません。
勧誘行為の禁止
実際に購入に至らなくても、未成年者に対して「売ってくれませんか?」と持ち掛けただけで処罰される都府県もあります。
たとえば、東京都に住む未成年者に対して、ネットフリマのコメント欄で「下着を売ってほしい」と持ち掛けると、その行為は処罰の対象です。断られた場合でも同様です。声がけをした時点で条例違反です。
何人も、青少年に対し、次に掲げる行為を行つてはならない。
「東京都青少年の健全な育成に関する条例」第15条の3
一 青少年が一度着用した下着又は青少年のだ液若しくはふん尿を売却するように勧誘すること。
使用済み下着等の購入を禁止している都道府県のうち、「北海道、岐阜県、愛知県、兵庫県」を除くすべての都府県(19都府県)で、勧誘行為が禁止されています。
勧誘は直接会って誘う場合のみならず、メモを渡したりメールを送ったりすること等も含まれます。つまり、勧誘を受けたことが相手に明確に理解されれば、手段は問われません。
フリマアプリのコメント欄に軽々しく書き込まないことをお勧めします。
PayPayフリマではコメントのやりとりが第三者に公開されないので、未成年者に対してショーツなどの購入を申し入れる例があると聞きます。これも、運営側がチェックしている可能性があるため、避けるべきです。
誰から買うと処罰される?
禁止されているのは「未成年者から」購入する行為です。未成年者とは18歳未満をいいます。高校在学中でも18歳になっていればこの条例の適用はありません。
この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
「東京都青少年の健全な育成に関する条例」第2条
一 青少年 十八歳未満の者をいう。
また、性別に関しては、成年男性が未成年の女性から購入するケースが大半と思われますが、条例の規定上、性別は関係ありません。成年女性が未成年の男性から購入、同性の未成年者から購入、いずれも条例が禁止する行為にあたります。
未成年者以外から購入する場合
未成年者が着用した下着であっても、成人から購入した場合は、この条例の適用外です。
たとえば、現在18歳になっているA子さんから、彼女が中学生、高校生時代(18歳未満時)に着用した下着を購入した、という場合、条例の適用はありません。
未成年者が着用した下着をその成年の家族から買った、というようなケースでも同様です。
未成年者ではないと誤認した場合
相手のことを18歳以上だと思ったが、実際は17歳だった。この場合も、処罰されます。「知らなかった」は通りません。条例でそのように規定されています(「東京都青少年の健全な育成に関する条例」第28条など)。
ただし、知らなかったことについて過失がない場合は処罰されません。
どういう場合が「過失がない」といえるのかは難しいところですが、単に「相手が18歳だと言ったので信じた」というだけでは「過失なし」とはならない可能性が高いです。
偽造の身分証を提示されたとか、かなり特殊な事情がなければ、「過失がないので無罪放免」とはならないと思われます。
なお、PayPayフリマやメルカリは、どちらも最近規約が改定され、未成年者でも出品が可能になっています。以前は未成年者の出品が禁止されていたので、「未成年者ではないと思った」という言い分が通りそうでした。現在は未成年者も普通に出品しているので、フリマアプリで購入したことを理由に「未成年者ではないと思った」とは言えなくなっています。
中学高校の制服や学校指定の体操服等は?
メルカリなどのフリマアプリでは、中学校や高校の制服の売買が規約上禁止されています。

たとえばメルカリでは、以下のものの出品が禁止されています。
- 使用済のスクール水着
- 使用済みの体操着、学用ブルマ
- 使用済みの学生服類
- クリーニング済みのスクール水着、体操着、学生服類
- 記載内容、金額や着用画像の掲載などによりブルセラと誤認する可能性があると事務局が判断するもの
- その他、上記と同等品と判断されるもの
いっぽう、以下のものは出品が認められています。
- 競技用水着やレジャー用の水着
- ジョークグッズなどコスプレ品
メルカリに出品されている制服等の商品説明に、
「規約により新品としています」
「コスプレ用」
などと書いてあることが多いのはこのためです。
ただし、メルカリで出品が禁止されている使用済み制服や学校指定の体操服・水着等は、ここで問題としている条例で売買が禁止されているわけではありません。メルカリ独自の判断によるものです。
規約で禁止されている物を出品すると、ユーザーからフリマ運営側に通報が殺到するらしく(そういうことを趣味にしている人がいます)、出品を削除されたり、アカウント停止などの処分がありえます。
まとめ
世の中にはさまざまな性癖の人がいて、他人に迷惑をかけないかぎり、それによって処罰されることはありません。フェティシズムそれ自体は悪いことではありません。
しかしながら、ここまで見てきたように、相手が未成年者の場合は、未成年者の健全育成の観点から、購入した人が処罰される場合があります。
このような条例が制定されている趣旨は、たとえば東京都の場合は以下のように説明されています。
本条は、青少年が身につけている下着を買い取る大人が存在し、これらが高じて、青少年のだ液若しくはふん尿の売買もおこなわれている実態を背景に、規定されたものである。
安価で購入した下着を一度着用した(本人が着用したと称した場合も含む)上で、それを高額で売却することにより簡単に多額の金銭を手に入れる行為を青少年が行い、それをきっかけに風俗関係の店に出入りするようになったり、犯罪に巻き込まれたりする事例が見られることになったのを受けて、平成16年の条例改正で新設された。
ニュースを調べるとわかりますが、すでに多くの摘発事例があります。
条例違反も立派な「犯罪」です。罰金刑とはいえ前科もつきますので、十分に注意してください。
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各都道府県ごとの解説
各都道府県の条例について参考資料を見ていきます。
当局による公式な解説書がある自治体
以下の各自治体には、青少年保護政策を担当する部署が作成した条例の解説書があります。その解説書の該当部分を引用しつつ、内容を概観します。